~About the Song~

表題曲は、トム・ウェイツの1974年のセカンドアルバム『The Heart of Saturday Night』の収録曲です。専門家やミュージシャンには好評でしたが、セールス面では不発に終わった作品です。後に彼の評価が高まってからは、初期の名盤として見直されています。San Diego Serenadeはヒット曲でもなく、トム・ウェイツの代表作という位置づけではありませんが、隠れた名曲として、ファンの中で人気を集めている曲です。“I never~till(until)~”という詩が繰り返されており、恋人を失って、初めてその大切さに気付いた男の悲哀に満ちた失恋ソングとなっています。

~Translation~

I never saw the morning ‘til I stayed up all night
I never saw the sunshine ‘til you turned out the light
I never saw my hometown until I stayed away too long
I never heard the melody until I needed the song
夜明けを見ることなんてなかったさ。夜明かしするまでは
陽の光に気づかなかったよ。君が明かりを消すまでは
故郷の意味が分からなかったよ。長い間そこを離れるまでは
メロディが心に響いた事はなかったよ。それが必要になるまでは
I never saw the white line ‘til I was leaving you behind
I never knew I needed you until I was caught up in a bind now
I never spoke “I love you” ‘til I cursed you in vain
I never felt my heartstrings until I nearly went insane
白い粉だって見たことなかった。君と別れるまでは
君なしじゃダメなんだって気づかなかったよ。こんなに苦しくなるまでは
「愛してるよ」なんて言えなかった。いたずらに君をからかうまでは
この気持ちに気づかなかったよ。気が狂いそうになるまでは
I never saw the east coast until I moved to the west
I never saw the moonlight until it shone off of your breast
I never saw your heart until someone tried to steal, tried to steal it away
I never saw your tears until they rolled down your face
東海岸の良さが分かっていなかった。西へ引っ越すまでは
月明りを感じた事はなかったよ。君の胸元が照らされるまでは
君の思いを分かってなかったよ。誰かが奪おうとするまでは
君が泣いている事にさえ気づけなかったんだ。涙が頬を流れ落ちるまでは
I never saw the morning ‘til I stayed up all night
I never saw the sunshine ‘til you turned out your love light, baby
I never saw my hometown ‘til I stayed away too long
I never heard the melody until I needed the song
夜明けを見ることなんてなかったさ。夜明かしするまでは
陽の光に気づかなかったよ。君が愛の明かりを消すまでは
故郷の意味が分からなかったよ。長い間そこを離れるまでは
メロディが心に響いた事はなかったよ。それが必要になるまでは

~First Impression~

穏やかな優しいメロディに、トム・ウェイツのしわがれ声を聴いて、「懐かしさ」のような感覚を感じるのはボクだけでしょうか?どこか邦楽っぽいメロディがそう感じさせるのかもしれません。失恋して初めて気付いた事をつらつらと男が嘆いており、時間さえ与えれば、男の嘆きは止まることなんてないんだろうな、と感じます。

「~するまでは~したことがなかった」と重ねていきますが、英語の語順としては逆、“I never~till(until)~”となります。tillの後の文を聴く度に、聴き手の心の中には溜息が充満するような構成となっています。対訳に関しては、日本語としての多少の不自然さには目を瞑って、英語の語順を尊重してみました。

~Interpratation~

◆曲名について

“San Diego Serenade”という曲名ですが、詩の中では、出てこないフレーズなので、解説を入れておきます。サンディエゴはアメリカ西海岸の南端に位置し、メキシコ国境にも接しています。ロサンゼルスのポモナという町で生まれたトムですが、10歳の頃に両親が離婚し、母親と共にサンディエゴのチュラ・ヴィスタという町に移住します。多感な10代をここで過ごしており、彼は表題曲を含め、サンディエゴでの経験に裏打ちされた曲を数多く残しています。

Serenadeとは、音楽のジャンルのひとつで、一般的には恋人や女性を称えるための「愛の歌」というニュアンスの言葉です。“San Diego Serenade”は故郷に置いて別れた彼女への想いを歌った愛の歌ということになりそうです。

◆時間軸について

基本構造としては、恋人を失って気づいた様々な事を歌っています。

I never saw the morning ‘til I stayed up all night
会えない寂しさで寝れなくなった。すると、今まで見たことなかった夜明けを見たと嘆きます。

I never saw my hometown ‘til I stayed away too long
故郷も恋人と同じように離れてみて初めて価値が見えてくるという事で、失恋と郷愁を重ねています。また、故郷に恋人に置いてきたというストーリーも連想出来ます。恋人との物理的な別れの表現となります。

最初から最後まで、I never~till(until)~のフレーズの繰り返しですが、時間軸をずらしたフレーズを各スタンザに入れる事で、嘆き節の嫌味や、くどい印象を受ける事はありません。時間軸に注意して読んでみると分かります。

I never saw the sunshine ‘til you turned out the light
I never spoke “I love you” ‘til I cursed you in vain
I never saw the moonlight until it shone off of your breast

上記の部分では、恋愛中の恋人との出来事を起点とした気づきを描いています。「今」の嘆きと「過去」の思い出を同じ形式で混ぜる事で、抑揚が生まれています。単なる未練たらしい男の苦い愚痴ではなく、失った恋愛の甘さも描いているラブソングと言えます。

~Unclarified issues~

◆サンディエゴを想う? or サンディエゴで想う?

前述のとおり、郷愁と失恋の心情を重ねている訳ですが、肝心の故郷について理解できませんでした。。。ボクの解釈では、東海岸のどこかで、主人公の男は西海岸(サンディエゴ)に越してきたというものなのですが、ネット上には、故郷をサンディエゴと解釈している訳が幾つかあります。タイトルにも入っているので、「サンディエゴを想う」というニュアンスから考えると、ピッタリではありますが、下記の一文の解釈を考え直さないといけなくなります。

I never saw the east coast until I moved to the west
東海岸の良さが分かっていなかった。西へ引っ越すまでは

それとも、ボクの解釈が正しく、タイトルは「サンディエゴで思う」というニュアンスなのでしょうか?

see(saw)の解釈

訳すのが面白かったポイントとして、see(saw)の解釈を挙げます。今回は英語の語順を尊重した分、意訳を避けず、分かりやすい訳を心がけてみました。see(saw)に関しては、「見る」「気づく」「意味が分かる」「良さが分かる」「感じる」と、文脈に合わせて訳しています。中でも下記の一文は面白い一文でした。

I never saw your tears until they rolled down your face
君が泣いている事にさえ気づけなかったんだ。涙が頬を流れ落ちるまでは

直訳すれば、「君の涙が頬を流れ落ちるまでは、君が泣くのを見た事がなかった」というイメージになります。文章として違和感しかありません。意味は通じますし、成り立っていますが、「君が泣くのを見た」と同義となり、untilの起点を付ける事に意味がない文章です。そこで、解釈としては、never sawを「気づかなかった」としました。イメージとしては、彼女は何度も泣いた事があったけど、頬を流れ落ちるまで、それに気づいてあげれなかったというイメージです。

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